Uボート本

Uボート部隊の全貌 ドイツ海軍・狼たちの実像

Uボート部隊の全貌 ドイツ海軍・狼たちの実像

Neither Sharks Nor Wolves: The Men of Germany’s U-boat Arm, 1939-45

Uボート部隊の全貌 ドイツ海軍・狼たちの実像
ティモシー・マリガン著、翻訳は「Uボート戦士列伝」「大西洋の脅威U99」の並木均氏。
狼たちが実体験を語る! 第二次大戦中のドイツ海軍「Uボート」部隊とは、実際どのような組織であったのか? Uボートの元乗組員約1000人に詳細な取材を実施、その実像に肉薄。従来のUボート関連戦史と一線を画す、資料性と臨場感に富む一冊。(amazonより)



「Uボート部隊の全貌」「狼たちの実像」というタイトルのとおり、この本はUボート部隊がどんな人間たちで構成されていたのか、「エリート部隊」とか「子供十字軍」とか「ナチめっ」とか言われているけど、実際どうだったのか、Uボートに乗り組んだ人間の実像について徹底的に研究されています。

その元となっているのが、元Uボート乗組員へのアンケート。その数なんと1,104名(将校167名、下士官・兵937名)!!損耗率7割の部隊の生存者で、しかも90年代に行った調査ですから、後にも先にもこのデータを集めるなんて不可能ってもの。このほかにも、米独で保存されている組織関連の記録や尋問調書などの公式資料、当時の戦闘日誌、元乗組員のインタビューなど、公から私まであらゆる資料をもとにしています。

デーニッツやエースたちの武勇伝や細やかなエピソード、作戦や艦そのものなど、Uボートの「ひと・もの・こと」に関してはそれぞれ素晴らしい文献がたくさんありますが、この本は、それらの逸話が、どんな背景で乗組員の士気や戦術にどう影響したかなど、それぞれの論題に沿って紹介されていくので、新鮮な視点で捉えることができました。
全12章と付録で総頁615(+巻頭写真)という大作ですが、まずは読むべし。
そしておせっかいながらもここでは、各章がどんなテーマで語られているかご紹介します。

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第一章 運命共同体
第二章 第一世代
第三章 Uボート戦の枠組み
第四章 Uボート戦のパターン一九三九〜一九四五年
第五章 精神と魂
第六章 適材適所
第七章 量より質
第八章 「子供十字軍」?
第九章 「至高の存在」
第十章 人間性と必要性の狭間
第十一章 公平無私の部隊
第十二章 終局
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まず、第一章「運命共同体」では、Uボート乗組員の編制、彼らの階級及び愛称も含む名称、役割、艦内での生活サイクル(?)などが紹介され、そのまた詳細を第五章「精神と魂」で、艦長はじめ士官たちがどのように選考され、どんな訓練・教育を経てUボートへ乗り込むのか、さらに第六章「適材適所」では、下士官・兵がどのように選考されどう配置されたのか、志願か徴兵か。そしてどちらも元乗組員へのアンケートをもとに、出身地や出身階級、職業、入隊以前に受けて来た教育が検証されています。

Uボートの乗組員は将校から兵卒にいたるまで選び抜かれた人材で、特に士官は統率力を重視するため家柄も考慮されたうえ、兵学校受験生の資格を得るのでさえ、最高で約50倍(’26年度)の競争率の中、「心身知性に関する一連の過酷な試験」をくぐり抜けてきたエリートたち。ここで合格した士官候補生たち、4年間の期間中の落伍者は5%程度だったとか。耐えるほうも凄いですが選ぶ側の眼力も凄い…。そして下士官・兵は金属工など手に職を持っていることが優先されたため、出自がある程度似通っているそうです。
この一・五・六章を読むと、映画『U・ボート』の乗組員一人ひとりが、本来は艦内でどんな役割を担っているのかという背景がわかり、より深みが増すというか妄想できるというか…。映画はもう何度も繰り返し観たという人も、この本を読み進める時には、航海長とシュムットが一緒に献立を考えているとか、ランプレヒト君が兵たちの問題を程よくもみ消してるとか、下士官の中で誰が出世しそうだとか、そんなことを勝手に妄想できます

そして第七章「量より質」第八章「子供十字軍」?では、その名の通り、開戦から終戦までの間に、士官・下士官・兵たちの量及び質がどう変化していったのか、初陣を迎えるまでの乗組員たちの年齢や訓練度合いなども論考されています。
戦争での部隊の損耗率を考えると、漠然と、経験不足な若者たちが戦い方もいろはも知らぬまま戦争に投入されて…と思ってしまいます。しかし、実際のところ、Uボート乗組員が最も低年齢化したのは’40〜’42年の間だったようで、むしろその時期の損失は低かったとしています。この章ではなぜこの期間に低年齢化したのかも説明していますが、’41年末を舞台にした『U・ボート』の中で艦長が言う「私は老人になった気分だ」というのもさらに重みを増してきますね。

なぜか戻って第二章「第一世代」。ここでは、第一次大戦からの教訓や、水上艦隊に代わりUボート部隊が台頭していく経緯、続く第三章「Uボート戦の枠組み」では、デーニッツとその参謀たちの奮闘ぶり、戦術・戦略、そしてUボートの型式の変遷など、”Uボートことはじめ”に迫ります。

第四章「Uボート戦のパターン 1939~1945年」では、大西洋の戦いを、部隊の拡張や優先順位の変化、技術的問題から4つの局面(’39年9月〜、’40年9月〜、’42年8月〜、’43年11月〜)に分けて、その戦力規模や戦果、損失数など検証しています。

第九章 「至高の存在」では、”士気”をテーマに、いわゆるお給料や休暇、昇進や各章の授章基準、さらには艦内での規律や統率など、Uボート部隊のモチベーションが何をもって維持されてきたか、そして’43年〜’44年頃の士気低下の時期に何が起こったのか、細かいエピソードとともに語られています。
乗組員の年俸は、基本給のほかに住宅手当・養育手当・戦地加俸・戦闘加俸にくわえ、”閉所加俸”なる手当や、訓練中には”潜水加俸”もあったんだとか。大戦中には乗組員の食事の質も向上していき、ひとたび哨戒に出ると4kg増量して帰り、大金がもらえるうえに10〜12日の休暇…。この章をみると、海軍のエリート部隊はかなり恵まれた環境にあったことが分かります。

次に、第十章「人間性と必要性の狭間」。ここでは撃沈した敵艦船の生存者に対してUボート部隊が如何に対応したか、主に初期の古参艦長たちの救助例をあげています。逆に救助しなかった例や生存者への唯一の発砲例なども記述されており、士気低迷の時期の艦長たちの緊張も窺い知ることが出来ます。
デーニッツは大戦中に「敵国人を救助してはならん。救命艇など気にするな、自艦のことを心配すべし」「だからもう禁止だってば」的な勧告を何度か出しますが、艦長たちはそんなことお構いなしに救命ボートの生存者に食料や飲料、タバコ、地図など渡したり、近くの船を止めて救助させたり、きわめて紳士的・人間的に振る舞います。これにはデーニッツも苦笑い。そして’42年のラコニア事件(U153が赤十字旗を掲げ救命艇を曳航中に米航空機に攻撃された事件)を経てついにヒトラーが「馬鹿げとる。殲滅したまえ」的に口を出してきますが、これに対してデーニッツが「お言葉ですがマインフューラー」と返すあたりが痛快です。

そして第十一章「公平無私の部隊」ではいよいよドイツ海軍と国家社会主義、ユダヤ人問題に触れます。レーダーやデーニッツと国家社会主義の関係、2人の対ヒトラー対策など。
ここでは「校長先生」と呼ばれたというレーダーの儀礼作法に関する徹底ぶりがちょっと笑えます。ヒトラーとも二時間に及ぶ怒号の応酬があったようですが、何をめぐる問題なのかは、本書で…。
さらにここで、これまでの11章を踏まえて、Uボート部隊の性格がとても解りやすくまとめられています。まるっと3頁ぐらい引用したいところですが、これまでの章を読まないと重みが伝わらないと思うので割愛。

最後の第十二章「終局」では戦争終結時のUボート、そして元乗組員が社会復帰してどんな職業についていったのかなどがまとめられています。
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この本、あまりに内容が濃くて付箋だらけになりました。
今後、事あるごとに引っ張り出すことになりそうです。

Posted: 2011/08/05 @ 05:42

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