その他の潜水艦映画
ブラック・シー
BLACK SEA
WWIIドイツものではありませんが、一応、Uボートが登場する映画の紹介です。
(結末は書いてませんが、ネタバレだったらごめんなさい。)
舞台は現代のイギリス。海軍出身の潜水艦乗りで海洋サルベージ会社で働く主人公ロビンソン(ジュード・ロウ)が、突如解雇される。妻子も彼の元を去り途方に暮れていた矢先、同じく解雇された元同僚が、「お前なら出来る」と一獲千金ネタを持ち込む。それが、第二次大戦中に2トンの金塊を積んだまま黒海に沈んだUボートがある、ということ。再起のチャンスと考えたロビンソンは早速、スポンサーと話をつけ、ロシアの老朽潜水艦を調達。
集められたのはイギリスとロシアから、酒呑み、イカレ野郎、ギャンブラーなどなど、人柄はともかく技術はピカイチのクセ者乗組員と、スポンサーから派遣されたお目付役、懐いてきたホームレスの少年ら12人。ロシア海軍が哨戒する黒海で、深く潜航しUボートを目指す男たち。しかしロビンソンが金塊を均等に山分けすると話したことから、艦内に不穏な空気が流れる…。
「ロシアの旧式潜水艦」で「金塊をサルベージ」する「荒くれ男たち」。この設定だけで、艦内で何が起こるか想像できますね。監督は、ミュンヘンオリンピックのドキュメンタリー『ブラック・セプテンバー』でオスカーを手にし『ラストキング・オブ・スコットランド』『第九軍団のワシ』などを手掛けたケヴィン・マクドナルド。目指したのは”潜水艦映画”というよりも『恐怖の報酬』『黄金』『特攻大作戦』といった映画らしく、こうした定番のストーリーを潜水艦でやるのは、なかなか珍しいんではないでしょうか。
囚人映画かと思えるほど見事な面構えの男たちは、陸では落ちぶれているものの、潜水艦の中では皆キッチリ自分の任務を果たす。しかし崖っぷち揃いのため”お金”の話は別。年齢も国籍も任務も違えば当然、均等に分けられる取り分に対する価値も違い、「気に入らねぇ」とお互いを牽制し合います。ロシア語と英語でケンカし、笑顔で罵り、ギリギリの人数にもかかわらず死人も出る始末。彼らをまとめあげるジュード・ロウ艦長もまた、やがて欲に目が眩んで危険な選択をとってしまい、旧式潜水艦の中で、人間たちが制御不能に陥ってしまう。
Uボート・チェッカーの見どころとしては、まずオープニングクレジットで、大戦中の実際のUボート映像が出てきます。劇中では黒海に眠るUボートが何型何号なのか語られませんが、大戦中実際に黒海に派遣されたUボートは6隻(U-9,18,19,20,23,24)。ソ連の進出により身動きが取れなくなり、いずれも自沈、2008年にそのうち3隻が海底で発見されました。
史実に基づくならばこの6隻のうちの1隻ということになりますが、艦橋にはハーゲンクロイツが堂々とペイントされています。そしてこの金塊は、財政破綻寸前のナチスが、当時中立だったソ連に融資を要求し、”スターリンがUボートに金塊を積んでヒトラーに届ける”はずだったもの。なので「ヒトラーの財宝」というより、「スターリンの財宝」でしょうか。
主人公たちが乗るロシア潜水艦はフォックストロット級で、これは1958年にUボートXXI型(大戦中に一隻だけ実戦投入)をベースに作られたもの。撮影では個人コレクターが所有する現存潜水艦”ブラックウィドウ号”で一部を撮影したんだとか。
劇中では乗組員が機関室で喧嘩ついでにシャフトを損傷し、航行不能に陥ってしまうのですが、Uボートを基に設計されたならば、「そうだ!そこにUボートあるじゃん!」という仰天展開となり、2トンの金塊を運ぶ潜水士に「Uボートのシャフトを外して持ってくる」というミッションが加えられます。
いよいよ90mの海底に沈むUボートに近づき、3人の潜水士がUボートに入ると、浸水を免れた艦内は乗組員の墓場と化しているもののほぼ無傷で、潜水士はあっという間に2トンの金塊とシャフトを運び出します。しかし、いざ金塊を引き上げたものの、海上にはジョージア軍、おまけにスポンサーの正体と目論みがバレ、このままでは文字通り苦労が水の泡に…。
ここからようやく潜水艦的ドラマが展開です(残り20分ぐらい)。シャフトは動くのか、浮上できるのか、どこを通ってどこに浮上するのか。航海士と聴音士、操舵士、艦長らが慎重に操艦する一方で、機関室では再び争いが勃発し…。
ということで、行き当たりばったりで、そこもうちょっと詳しく…みたいなツッコミどころは多々あれど、財宝に取り憑かれた人間の下劣な姿と、オンボロ潜水艦は浮上できるのかというスリリングな展開、汗と油にまみれたむさ苦しい男たちと薄汚れた艦内のビジュアルは見る価値ありです。
(2015年8月15日(土)公開)
教訓:計画と人選は慎重に。